【完】姐さん!!



それだけで何が言いたいのかわかったわたしは、ふるふると首を横に振った。

やめて、と。くちびるを動かしたけれど、焦りが勝(まさ)ったせいで声にはならなかった。



「っ、」



歩み寄ってきたさおが手を伸ばしてきたから、とっさに顎を引く。

それと同時に「なにする気?」と衣沙が、わたしを庇うように聞いてくれるけど。



「じゃあ俺は触りませんから。

衣沙さんが自分で確かめたらいいんじゃないですか?」



「、」



「姐さんのシャツのボタン外してみてください」



カッと、頬が熱を持つ。

衣沙がちらりとわたしを見て、それから「お前」とさおに向けた声は低い。




「なるみに何してくれてんの?」



何されたのか、確かめるまでもなかったらしい。



怒ってるのはすぐにわかった。

わたしのために怒ってくれてるんだってことも。……だけど、さおがすべて悪いわけじゃない。



はじめはくちびるにキスしたいって言われた。

でも、どうしても嫌だってわたしが拒んだから。衣沙じゃなきゃ嫌だってわたしが言ったから、彼はキスマークひとつで譲歩してくれた。



もともとわたしは中学時代のトラウマがあるせいで、男の人に触れられるのが怖い。

日常に差し支えるほどではないけど、男女というのを意識すればするほど怖くなってしまう。



だから、キスマークも、ためらった。

さおとは仲が良い上にすぐに離れてくれたから結果的に怖い思いをすることはなかったけど、それでも。



それでもわたしが、くちびるを拒んだ理由。

……気づいてくれることも、ないんでしょう?



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