風の歌
「…陽、もたもたしてたら『憑物』が来ちまうぜ」
男はウザそうに校長を見る。
「わかってる」
「校長先生、大丈夫です。私には家族何ていませんから」
海里は校長の目を真っ直ぐ見ながら無表情に言った。
「…!!」
校長の顔が強張る。
…海里?
何言ってんだよ?「家族何ていない」だって?
確かに海里の本当の家族はいないけど、俺達孤児院の仲間は血がつながってなくても皆家族だろ!?
父さんも母さんも、海里は実の娘も同然だって言ったじゃないか!!
何考えてんだよ!!
走り出す陸。
「陸…!!」
止めようとしたが間に合わず、風歌はその場にとどまってしまった。
「…!」
黒服の男は刀に手をかけた。
「どうやら来ちまったらしいぜ」
「…仕方ないな」
校長と話ていた男もARMSに手をかけた。
「何が来たんですか?」
ただならぬ雰囲気に焦る校長。
「!?」
学校の上空に、とてつもなく巨大な、例えて言うなら死神のような恐ろしいいでたちの、黒服の男が『憑物』と呼ぶ生命体が、明らかに海里を睨みながら突然現れた。
「キャアー!!!!」
「逃げろー!!!」
その恐ろしさに、先生や生徒達はいっせいに逃げだす。
恐怖で腰が抜け、その場に座り込んでしまう者もいる。
「何だあれ…?」
陸は憑物を見上げる。
「陸!!」
風歌は陸の手を掴み、走り出した。
「風歌…!どこ行くんだよ!!」
「逃げるの!!」
「逃げたら、海里があいつらに連れてかれるだろ!!」
「死にたいの!?」
「…!!」
いつも声を荒げることのない風歌が、声を荒げ叫んだ。
圧倒されてしまい、陸はそのまま風歌に引っ張られ去って行った。
「たいしたことねぇな。これなら俺だけで十分だぜ」
「…一応用心しろよ。バックアップするから、ちゃっちゃと頼むぞ!!」
「わかってる!」
ダンッ!
と地面を強く蹴る音がしたかと思うと、いつの間にか、刀を持った男は憑物がいる上空に移動していた。