風の歌
「俺は貴島陽(きしまはる)。18歳だ。よろしくな、海里ちゃん」
陽と名乗る男は笑顔で自己紹介した。
黒髪の、なかなかの美男子である。
「よろしくお願いします」
「呼び捨てでいいからな。1歳しか違わないんだし」
「はい」
この人は何か良い人そうだな。
…それに比べてこっちの奴は……
ちらっと、先程怒りの一撃をおみまいしてやった男を盗み見る。
「………」
無言のままそっぽを向いている。
左頬がうっすらと赤い。
「星…お前も自己紹介しろよ」
「…」
陽を横目で見たかと思うと、すぐに目をそらした。
陽は深い溜め息をつく。
「そいつの名前は柴崎星(しばさきほし)って言うんだ。歳は俺より1つ下で17歳。短気で愛想悪くて口悪いけど、仲良くしてやってくれ」
「陽、余計な事言うな。俺は馬鹿と仲良くするつもりはない」
プチッ!!
「だからあんたはさっきから馬鹿馬鹿馬鹿って何回言えば気がすむんじゃこの仏頂面!!!!!」
ガターン!と勢いよく座席から立ち上がる。
「かっ海里ちゃん!今一応ヘリ乗ってるんだから落ち着いてっ!座ってないと危ないよ!!」
おどおどする陽。
「…仏頂面なのは自分でもよくわかってんだよ。いちいち言うな馬鹿。声でけーよ」
「星も!失礼だぞ!!」
「…」
再び睨みあう2人。
「………はぁ」
2度目の深く長い溜め息。
「あの……そろそろ着きますけど…」
3人のやり取りを黙って聞いていたヘリの操縦士が、おずおずと言った。
「…わかった。2人共、睨みあってないで降りる準備して」
「絶対あんたなんかと仲良くしない!!」
「こっちこそ願い下げだ」
また殴ろうかと思ったのだが、我慢する。
乱暴に鞄を取った。
少ししてからヘリは地面に着陸した。