切ない春も、君となら。
「春日ちゃんだったかな? これからもうちの孫をよろしくね」

「へっ! いえいえ、こちらこそです!」

再び深く頭を下げると、近田君のおばあちゃんは襖を開けて部屋から出て行った。


「ああ、何かドキドキしちゃった」

胸に両手をあて、深く息を吐いてからそう言うと、近田君には「ばあちゃんと話した位で大袈裟な奴だな」と返され、小さく笑われた。
だって、好きな人のおばあちゃんだもん。緊張しちゃうよ。


「近田君、他の家族の方は……?」

そう尋ねると、彼は。


「いないよ。俺、ばあちゃんと二人暮らしなんだ」

「え?」

「両親は俺が小学生の時に車の事故で亡くなってる。じいちゃんも、二年前までは一緒に暮らしてたけど、病気で亡くなった。
あ、姉ちゃんが一人いるけど、もう結婚してるから一緒には暮らしてない」


そう、だったんだ……。ご両親が亡くなられてるなんて知らなかったな……。


「寂しく、ない?」

「ん? 今は慣れたよ。ばあちゃん優しいしな」

早く大人になって、ばあちゃんに恩返ししたい。そう話す近田君に、胸がドキンとときめいた。


「そ、そう言えば今日は突然、どうして家に呼んでくれたの?」

ドキドキしてるのがバレない様に、さり気なく話題を変えてみると。


「ああ、それはな」

彼が口を開いたのとほぼ同時に、先ほどおばあちゃんが出て行った襖が再び開いた。


部屋に戻ってきたおばあちゃんの手には……浴衣?
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