切ない春も、君となら。
そしてーー。


ガラ……と控え目な音を立てて、私は居間の襖を開けた。


机の上でバスケットボールの雑誌を広げていた近田君が反射的に顔を上げて私を見る。


「ど、どうかな……?」

彼のおばあちゃんに綺麗に着付けてもらって、ついでに髪も簡単にだけど結ってもらった。


「……おお」


彼は短く、そう答えるのみ。


ちょっと、それだけ?

……と言いたいところだけど、分かってるよ。目を逸らして、素っ気ない返事をするのは……ほら、耳まで赤い。ありがとう、近田君。似合ってるよと言われたことにしちゃいます。


「総介は浴衣は?」

「お、俺はいいよ。男は皆、私服だからっ」

「何恥ずかしがってるの」

「恥ずかしがってないから!」

ふふ。おばあちゃんと話す近田君、何だか可愛い。
近田君の浴衣姿も見たかったけど、彼が突っぱねた為、そこまでは叶わなかった。


その後、しばらく近田君とおばあちゃんと三人でたわいもない会話をしてから、私と近田君は一緒に花火大会の会場まで向かった。皆とは、会場の入り口で待ち合わせをしている。


カラン、コロン。歩くたびに、貸してもらった下駄がコンクリートを蹴る音が綺麗に響く。



「今日は、ありがとうね」

歩きながらそうお礼を伝えると、彼はやっぱりそっけなく「別に」と答えた。


こうして二人並んで歩いていると、はたから見たら恋人同士に見えたりするのかなー、なんて思って、つい顔がにやけそうになる。


「花火、楽しみだね」

浴衣と同じ柄の、小さくて可愛い巾着袋をゆらゆら揺らしながらそう言うと、彼も「そうだな」と答えてくれた。
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