切ない春も、君となら。


「あっ、はるはるー! チカオー! こっちだよー!」

集合場所に行くと、ピンク色の浴衣に身を纏った杏ちゃんが、浴衣を着ているにもかかわらず右手を大きく挙げてぶんぶんと左右に振りながら私達に声を掛けてくれる。


「お待たせ〜」

四人とも既に到着していた。
私と近田君が揃って登場すると、杏ちゃんは少し首を傾げて、


「二人一緒に来たの? 家の方向違うのに?」


と聞いてきた。

う。意外に鋭い。

とはいえそこまで不審に思っている訳でもなさそうだったので、「会場前でたまたま会った」と二人して誤魔化した。別に、嘘吐く必要はなかったかもしれないけど……何となく。やっぱりちょっと恥ずかしかった。近田君も同じ気持ちだったと思う。


「わあ。春ちゃんの浴衣可愛いね。金魚だ」

淡い水色の生地に朝顔が咲いている浴衣を着た菜々ちゃんがそう言ってくれる。

嬉しくて、「ありがとう」と素直に答えた。

やっぱり、浴衣を着てこられて良かった、って思う。近田君には、本当に感謝してばかりだ。


「じゃ、花火大会までは適当に楽しみながら時間潰そーぜ!」

基紀君の言葉通り、私達は一時間後の花火大会まで、屋台などを見て回ることにした。

輪投げ、射的、わたあめ、金魚すくい……お祭りの定番とも言える屋台がずらっと立ち並ぶ。

私はそれらを眺めて楽しんでばかりだったけど、杏ちゃんはたくさん食べて、たくさん遊んで、楽しそうだ。そんな彼女を見ているだけで、私もとっても楽しめる。


すると不意に基紀君が。


「なあ春日」

「何?」

「ちょっとだけ、二人で抜け出さね?」


……え?
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