切ない春も、君となら。
「え?」

「……って呼ぶことにする」

私から顔を背けている彼の表情を覗くことは出来ない。
でもきっと、顔を真っ赤にして照れているのだろう。


春、って。季節の春のことかと思った。
どうやら、私の名前みたい。


「……嬉しい」

家族にも、友達にも、莉菜達にも〝春〟とは呼ばれたことない。
近田君からの、特別な呼ばれ方。


「……じゃあ私も〝総くん〟とかどうかな?」

「それだとうちの母親と被るな」

「被ってもいいじゃない」

「やだ」

途中からさっきと全く同じ会話。そんな話の内容を、やけに面白く、楽しく感じてしまう。


花火、あんまり見えなかったけど凄く綺麗だったよ。


来年も一緒に見よう。総介君ーー。
< 110 / 160 >

この作品をシェア

pagetop