切ない春も、君となら。
杏ちゃんと堀君には何も言わずに、そっとメインステージから抜けた。
脇道の自販機の近くで足を止めて話を始める。
「基紀君、ごめんね。急に抜け出させて……」
「ああ、いいよ別に。でもどうしたの?」
彼は大して気にしてない様子でそう言ってくれるけど……きっと本当は気付いてる。私がこれから何を言いたいか……。
だけどその前に、
「基紀君って……」
こんなことを聞いてしまう私は意地悪かな? それとも臆病?
「基紀君って……春ちゃんのこと好きだよね?」
私がそう聞くと、彼は肩を震わせて分かりやすく動揺した。
「は、はあ⁉︎ 好きって……あんな金髪女好きになる訳……」
「……なる訳、ない? 本当に?」
探る様な視線を向けながらそう聞くと、彼は私から視線を逸らし、少し言葉に詰まった後、
「……誰にもバレてないつもりだったんだけどなぁ」
と、観念した様に笑ってそう答えた。
「杏にも総介にも堀にもバレてない自信あるよ。松岡さんって観察眼凄すぎるんじゃない?」
おどけてそう言ってくるけど、それだって本当は分かってるくせにって言いたくなる。
私があなたのことをずっと見ていたの、分かってるくせにって言いたくなるの……。
だから。
「私、基紀君が好き……」
誤魔化すことなく、自分の気持ちを彼に伝えた。
返事が分かり切っていたせいか、思ったほど緊張せずに真っ直ぐに伝えられたと思う。
彼の返事は、私の予想通り。
「ごめん、俺は春日のことが好きだから」