切ない春も、君となら。
焼き鳥の屋台の前のベンチに二人並んで腰掛ける。


辺りにちらほら人の姿はあるものの、大抵の人達はメインステージにいるし、そうでなくても皆花火に釘付けだ。


私は、正直花火なんかもうどうでもいい。



「はい」

ほりぃが串焼き鳥を一本買ってくれたようなので、それを受け取る。
すぐに頬張ろうとは思わなかった。


「泣くくらい、基紀のこと好きだったんだろ」

そんなことを言ってくる。偉そうに。私の気持ちの何が分かるの。


「……好きとか、そうじゃないとか、口にする必要なんかないと思ってた」

私がそう言うと、ほりぃは「え?」と首を傾げる。


「……小さい頃から、杏の隣にはいつも基紀がいたの。それが杏にとって当たり前だったの。基紀にとっても当たり前だと思ってた。だから、好きだとか言わなくても、杏と基紀はいつか結婚するものだと思ってたの」


それが一番自然なことだと思ったし、ママとパパもそう言ってくれてた。基紀のお母さんとお父さんだって。


基紀だって、私が側にいて嫌がったことなんかなかった。


私も、クラスで他の女の子達から無視されたって、誰も話し掛けてくれなくたって、基紀がいればそれで良かった。


「……駄目だよ。好きなら好きって言わなきゃ、相手には伝わらないよ。相手も自分と同じ気持ちだなんて、どうして思い込めたの?」

小さい子供じゃないんだからさ、とほりぃに言われる。

それを聞いて……凄いムカついた。


「うるさいなぁ! 自分だって告白出来ないで失恋したくせに!」

ほりぃに私の気持ちをとやかく言われたくない!

皆、私のことを子供みたいって言う。

そう言いながら、皆私のこと馬鹿にしてるんだ。

本当は嫌だった。そういうこと言われるの。

過去、そういうことを言われる度に周りから聞こえる、クスクスって笑い声はもっと嫌だった。
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