切ない春も、君となら。
朔ちゃんは、私との思い出は全て記憶から消し去りたいと思っているんだろう。

ううん、思い出どころか、私の存在自体を消したいのかもしれない……。


私は、朔ちゃんが仲良くしてくれたことが本当に嬉しかったし、彼女と遊んでいたあの頃が中学時代で一番楽しかった。


あの時、本当は助けてほしかった。


でも、朔ちゃんを責めるつもりなんかこれっぽっちもない。


朔ちゃんは、私が髪を染めたりスカートを短くする様になったのを見て、きっと莉菜達と毎日派手に楽しく過ごしていると思っていたのだろう。


きっと今も、派手に遊んでると思われてるんだろうな。



横断歩道を渡り終えて反対側の歩道を歩いていく朔ちゃん達の姿をぼうっと見つめていると「春日?」と、今度は私が背後から話し掛けられる。

良く知ってるその声に、思わず身体が強張る。


ゆっくりと振り返り、私もその人の名前を呼んだ。


「……泉」

泉は何も答えず、私の隣にすっと立った。

信号機は、いつの間にか赤に変わっていて、私達の目の前を車が何台も通り過ぎていく。


今日は珍しい日だ。朔ちゃんに会った方思えば、泉にも会って。
まあ、みんな家が近いから外でばったり会ってもおかしくないけど……。


泉と会うのも、勿論あのカラオケボックスでの一件以来。
あの時より少しだけ茶髪の色が明るくなった気がするけど、今日は珍しくすっぴんだった。


「……莉菜は?」

恐る恐るそう尋ねると「いないよ」と返される。泉は、今日は一人で買い物しているだけらしい。
< 123 / 160 >

この作品をシェア

pagetop