切ない春も、君となら。
「泉は、何で莉菜と一緒にいるの?」

もうすぐ青色に変わる頃と思われる信号機を見つめながら、そう聞いてみた。
正確には、何でそんなこと聞いたのか自分でもよく分からない。気が付いたら聞いていた。


「楽だから」

泉はそう答えるけど、本心かどうか分からなくて、思わず彼女のことをじっと見つめてしまった。


……そんな私の視線に気が付いたからなのかは分からないけど、彼女はもう一度口を開き、

「……あんたも気付いてるもしれないけどさ、私だって、莉菜のことは怒らせない様にかなり気を遣ってるよ」

ちら、と横目で私を見やりながらそう話す。

「……莉菜から離れたいとは思ったことないの?」

「一度もないって言ったら嘘になるかもしれないけど。無理に一緒にいる訳じゃない。私はあんたみたいに〝自分らしさ〟なんて持ってないし」


……自分らしさ?

そんなの、私だって持っていない。莉菜に合わせて髪を染めて、好きでもない格好をしている。


でも、〝本当の自分らしくなりたい〟と思う気持ちが、泉の言う〝自分らしさを持っている〟ということになるのだろうか。



信号機が青に変わった。

「じゃあね」

素っ気なくそう言って、泉は横断歩道を渡っていく。

私はやっぱりその場から動けなくて、彼女の後ろ姿を見つめながら、思う。

泉のことは、好きじゃない。どちらかといえば、嫌いだ。

だけど、彼女は莉菜と一緒に過ごすうちに〝自分らしさ〟を見失ってしまったのかもしれない。

そう思ったら、本当の泉はどんな子なんだろう、なんてことを思った。
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