切ない春も、君となら。
決断
「本当は新学期が始まる今日だけでも登校してきて、皆に挨拶してもらう予定だったんだが……」


担任の言葉を聞き取れたのはそこまでで、その後はただ呆然としていた。

転校の理由とか、彼からの伝言とか、担任が色々言っている気はしたけれど、しっかりと届いてはこなかった。


ホームルームが終わった後、席から動かずにいる私の元へ、菜々ちゃんと基紀君がやって来て心配そうに私の顔を覗き込む。


「春ちゃん、大丈夫?」

「総介、転校って……。俺達に何も言わずに……」

そうだよ、何も言わずにこんなことって……。


……本人から聞かなきゃ、納得出来ない。


私は何とか立ち上がり、「ちょっと電話してくる!」と二人に告げると、勢いよく教室を飛び出た。


スカートのポケットから携帯を取り出し、ひと気の少ない場所を探しながら画面を操作する。
メッセージアプリを起動し、辺りに誰もいない階段の踊り場で、通話開始ボタンをタップする。


無機質なコール音を左耳で感じながら、〝転校なんて、もしかしたら担任の勘違いかも〟なんて期待もしていた。


学校を休んでいるくらいだし、電話に出てくれる保証なんて全然なかったけど、四コール目で【もしもし】という彼の声が聞こえた。


「も、もしもし総介くん⁉︎ 今話せる⁉︎」

俺も今、ちょうど連絡しようと思ったところ。そう答える彼の声は、思っていたよりはいつも通りで少しだけ安心した。
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