切ない春も、君となら。

午後六時。

先日、莉菜に会った場所と同じ大通り。

平日でもそれなりに人が行き交っていたこの場所は、日曜日の今日は更に人が多い。

ただ、待ち合わせの十分前に莉菜からメッセージが届き、【あんまり人目につくのもアレだし、本屋の裏の路地にこっそり入って来て】と書かれていた。


言われた通りの場所に入っていくと、既に莉菜と莉菜の彼氏が待っていた。


「あ、春日来たー。って、何その格好。地味じゃない?」

莉菜が少しイラッとした声色で、首を傾げて私に問い掛ける。


ベージュのパーカーに、グレーのハーフパンツ、履き古したスニーカー。莉菜達の求める〝派手な格好〟とは程遠かったんだろう。


「まあまあ莉菜。この際、服装はどうでもいいよ。どうせ全部脱ぐんだし」

「えー、そう? ごめんね、この子バカでー。メイクも薄いし、ちゃんと分かってんのかって感じー」

「金髪ギャル好きなオヤジを募集掛けるからさ、とりあえず金髪ならオッケー」

莉菜の彼がそう言うと、莉菜はまた私に視線を向ける。そして。

「春日、何で帽子なんか被ってんの? 肝心な髪の毛が見えないじゃん」

莉菜の手が、すっと私の帽子に伸びる。
帽子を掴んだその手は、私の頭からそれを外す。

帽子の中でまとめていた髪の毛が、ふわりと広がる。

莉菜と莉菜の彼が、目を丸くして私をーー私の髪を見る。


「……どういうつもり?」

鋭い視線と低い声で、莉菜が私に問う。


私は、右手でぎゅっと、自分の髪をひと束、握った。


美容院で黒く染め上げた、自分の髪を。
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