切ない春も、君となら。
「……莉菜の言いなりになるのは、もうやめる」


それが、私の出した答えだった。


ずっと怖くて現実から逃げていた。
莉菜に従ってばかりの自分が嫌でたまらなかったけど、そこから逃げ出す勇気なんかなかったから。


総介君が全てを知ってくれて、味方になってくれると言ってくれて。
嬉しかったけど、その彼はもう側にはいてくれない。もしかしたらもう二度と会えないのかもしれない。
そう思ったら、私はやっぱり変わることなんか出来ないんじゃないかって思った。
このまま、莉菜の言うことを聞きながら生きていくんだ、って思った。


だけど。

だけど、やっぱり。そんなんじゃ、総介君からもらった勇気も、思い出も、全てなくなってしまう気がした。


もう恋人同士じゃなくても、大好きな人が私の支えになると言ってくれたあの幸せな時間は、なかったことにはしたくない。


もらった勇気を、行動に変えたい。

あなたのお陰で私は変われたって思いたい。


何もなかったことになんかしたくない。



「バカにしてんの?」

莉菜が一歩、私に詰め寄る。思わず後ずさりそうになるけど、堪えて、彼女の目をしっかりと見つめる。


すると、莉菜の右手が勢いよく私の髪を掴んだ。


「ふざけんなよ! あんたは私の言うことだけ聞いてればいいんだよ!」

グイッと強い力で引っ張られ、足元が揺らぐ。


「おい、莉菜。いいって。他の子見つけるから」

「黙っててよ! こんなにコケにされて引き下がれるかっ!」

莉菜が私の両肩を掴み、そのまま壁に背中を打ち付けられる。
痛みに顔を歪めると、右手で口元を抑えられる。声が出せない。


「カラオケボックスでの時からムカついてたんだよ。それでも今回、謝る猶予と機会をやったのに、調子乗ってんじゃねーよ」

莉菜とは長い付き合いだけど、ここまで怒らせたのは初めてだし、見たことのない顔をしている。これ以上拒んだら、ウリ以上に酷い目に遭うだろうと思う。


……それでも。


「っ、はあっ、私は、もう逃げないって決めたのっ」

口元から何とか莉菜の手を剥がし、私は彼女の目を真っ直ぐに見つめながらそう言った。
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