切ない春も、君となら。
「っ、ふざけんな!」

莉菜が強く握った拳を私に向かって振りかざす。


……でも、その手が私にぶつかることはなかった。


どこからか突然、誰かのハンドバッグが飛んできて、莉菜に当たったから。


「……は?」と、莉菜が目を細め、自分の足元に転がったバッグを見つめる。
私も同じだった。何? 誰のもの?

と、バッグに気を取られていると、突然右腕が誰かに引っ張られる。


そして。


「春日ちゃん、早くこっちへ!」


え……? どうして、ここに?


ううん、それより、何で……


何で助けてくれるの?



「朔ちゃん……?」


私の腕を引っ張っているのは、紛れもなく朔ちゃんで。

息を切らしていて、ここへ走ってきたと思われるから、偶然通りかかったという感じじゃない。
ううん、偶然だったとしても、朔ちゃんがこんな危険な状況で私を助けるなんて……。


「早く! 大通りまで出れば大丈夫だから!」

掴まれている腕に更に力を込められ、彼女はそのまま走り出す。
その力に引っ張られながらも、私もその場から走って逃げ去った。
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