切ない春も、君となら。
……は? と莉菜には似合わない間抜けな声を出す。
自分の意見に反することを言われて怒っている、というより、予想もしていなかったことを言われて驚いている、といった感じに思えた。
長い付き合いの中で私がこんなことを言うのは初めてだったから、無理もないかもしれない。
「ちょっと、何言ってんの? 聞いてなかった? 春日と岸谷、私のことをコケにしてきたんだよ?」
「聞いてた。ちゃんと分かってる。だって、春日が莉菜にウリに利用されそうでヤバいってことを朔に伝えたの、私だから」
言ってしまった。莉菜を怒らせると分かっていながら。
「…….それ、どういうことなの?」
「私、朔とは家が近所で、小学生の頃からの知り合いなんだよね。仲良く遊んだことはないけど、何かの拍子に連絡先だけは交換して、知ってた」
「そういうこと聞いてるんじゃない!」
莉菜が正面から私の両肩を掴む。平静を装ったけど、少しだけ怯んだ。強い力と、思っていた以上に怒っている表情をしていたから。
「何なの⁉︎ あんたまで私のことバカにしてるっていうの⁉︎」
ギリ、と莉菜の指先が私の肩に食い込む。
顔を歪ませないように堪え、私はいつも通りの顔で話をする。
「違う。そうじゃないよ、落ち着いて。
私は……春日のことは別に好きじゃない。
いつもオドオドしていて、私と莉菜の顔色を伺ってばかりで……私も春日のことは見下してたし、春日を利用することで優越感に浸ってた。自分がしてきたことを、今さら春日に謝ろうとも思わない。
……だけど。
この間カラオケボックスで春日が莉菜に意見した時、もう……春日を解放するべきなんじゃないかって思った」