切ない春も、君となら。
解放? と、莉菜が切れ長の目を細める。


「あの春日が、だよ。あんなに真っ直ぐに意見してきたの、初めてだったから。
正直、凄いと思ったんだよ。私には出来なかったことだから」

「……私には出来なかった、ってどういうこと?」

「……私だって、莉菜に意見したいことは今まで多少はあった。春日ほどの不満はなかったにしても、莉菜の機嫌が悪い時にやつ当たられたり、春日がいない時に貸したお金を返してもらえなかったり、私もそういうことがたまにあったから」

「……」

「莉菜は、春日だけじゃなくて私のことも本当は見下してることには、ずっと前から気付いてた。
だけど私は何も言えなかった。勇気がなかったから。
だから、春日のことは純粋に凄いと思ったんだ」

こんなに自分の気持ちをぶつけるなんてこと、今までなかった。莉菜に対して、という訳じゃなく、誰に対しても私は自分のことはほとんど話してこなかった。自分の気持ちをぶつけて熱くなることを、どこかかっこ悪いと思っていたから。
でも、かっこ悪いことなんかじゃないと、あの日のカラオケボックスでの春日を見て思ったんだ。


「莉菜に意見するっていう、私がずっと出来ないでいたことを先にやってみせた春日をバカにすることは、私にはもう出来ない」

「……」

「それにさ、あの日のカラオケボックスで春日が言ってたでしょ。〝私のことを友達だって言ってくれる人達と一緒に過ごしたい〟って。あれ、私達にも言えることなんじゃないかな。
春日は、私達のことはきっと嫌いでしょ? 私達のことを嫌いな子を無理に従わせて側に置いておくより、私達のことを好きだって言ってくれる子と一緒にいた方が、私達自身も楽しいんじゃないかな」

そう言い終わるのと同時に、私の両肩を掴む莉菜の手の力が、何故かすっと抜けた。その手はまだ私の両肩にあるものの、ただ置かれているだけで力が入っていない。
どうしたんだろう、と思い「莉菜?」と声を掛けると、彼女は決して泣いている訳ではないのに、その瞳が何故か揺らいでいて不思議に思う。
もう一度、「莉菜?」と名前を呼ぶと、彼女がゆっくりと口を開く。

「……そんなの、無理に決まってるじゃん」

「え?」

莉菜の声は震えていた。莉菜のこんな声は初めて聞いた。
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