切ない春も、君となら。
朔ちゃんに謝って、私は駅まで走った。
電車に乗って、目的の駅で降り、彼の家へ向かって再び走り出しながら、頭の中は何度も基紀君の言葉を繰り返していた。
【さっき総介から突然電話が来て、そう言われたんだ。準備が整ったから引っ越すって。もう、当分はこっちに戻ってくることはまずないって】
泣きそうになるのを堪えて、ひたすら走る。
【しんみりするの嫌だから、俺達にも何も言わずに行くって言ってたけど、せめて春日とはもう一度会えって言ったんだ。
だけど……
辛くなるだけだからもう会わないって】
とにかく、走った。
【頼む。会いに行ってくれ。辛いから、なんて……明らかに春日に未練がある言い方だろ。
よりを戻せとか、そこまでお節介は言わないから……このまま離れ離れになんかならないでくれ】
息が、苦しい。でも、立ち止まったら気持ちがもっと苦しくなるはず。
間に合え。間に合え。
彼が私にもう会うつもりがないのなら、それでも仕方ないのかもしれない、なんて先日までは思って、諦めてた部分もあった。
だけど。いざその時が急に訪れたら、居ても立っても居られなくなった。
それに。
やっぱり、彼が私ともう会いたくないと思っていても、私は会いたい。
まだ彼女でいたいとかそういうことじゃなくてーー伝えたい。
あなたのお陰で私は変われたってことを!
「あっ……」
ようやく彼の家へ辿り着くと、家の前に一台の車が停まっていた。そして、おばあちゃんをゆっくりと車の後部座席に乗せる総介君の姿が見えた。
……間に合った。