切ない春も、君となら。
「総介君!」

駆け寄りながら名前を呼ぶと、彼は驚いた表情で私に振り向く。


「春……って、その髪……⁉︎」

私の顔、というよりも髪の毛を見て、目を大きく見開く。

話したいこと、伝えたいことはたくさんあるのに、呼吸がままならない。ギリギリで会えたというのに、私は両膝に手をつき、地面を見つめながら肩で息をする。すると。


「叔父さん、少しだけ待っててくれますか」

彼は運転席に座る人にそう伝えると、再び私に向き合い、


「とりあえず、落ち着け」


と、私の頭にぽんと手のひらを乗せてくれた。


その重みに、心が安心して、堪えていた涙が抑えられない。


ゆっくりと顔を上げるも、何から話していいのか分からない。涙が溢れて、不細工になってるかもしれない顔で、ただ彼を見つめる。

すると、彼の方から口を開いた。

「……ごめん」

と。私が小さく首を傾げると。


「ずっと連絡しなくてごめん。それから
黙って引っ越そうとしてごめん。忙しかったっていうのも嘘じゃない。だけど本当は、春に対する未練が残りそうで、俺からは何も言えなくなってた」

「未練……?」

「離れ離れになって、寂しい思いさせるの嫌だから。だから彼氏彼女としての関係は別れを選んだけど、どうしても……まだ、好きだから」

好き、という言葉を彼の口から聞けて、胸がきゅぅっと締め付けられる。


杏ちゃんの言う通り、総介君は私のことを考えて別れ話をしてくれていた。連絡がずっと来なかったのも、私と二度と会いたくないからじゃなかった。
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