切ない春も、君となら。
「ねぇ……この髪、どうかな」

私の口から出たのは、そんな言葉だった。


「総介君のお陰で、私は変われたの。勇気を出して、金髪を黒髪に戻せた。そのことは、どうしても伝えたかった」


彼はしばらく無言で私を見つめていた。やがて目を細めて、少しだけ照れ臭そうに、


「凄く……可愛いと思う」


と言ってくれて。


「え、あ、かわ……? に、似合ってるかどうか聞きたかっただけなんだけど……」

「えっ、あっ⁉︎ じゃあ今のは忘れろ!」

総介君の顔は真っ赤だ。思わず笑みが溢れる。

忘れるなんて無理だよ。大好きな人に可愛いなんて言われたら。


「何笑ってんだ。ていうか」

突然、彼の右手が私にすっと伸びてきて、私の黒髪をわしわしと乱暴に掻き乱す。

「わっ、ちょっ⁉︎」

「似合ってはいるけど、逆に黒すぎ。真っ黒すぎるだろ」

「そ、それは仕方ない! 今日染めたばかりだし! 黒に染めるとしばらくは不自然なくらいに真っ黒になるの! だからやめてー」

彼の手が私の頭からすっと離れる。私は慌てて手ぐしで髪を直す。もう、一体何だったの。
少しだけ頬を膨らませて彼の顔を見た瞬間ーーぎゅ、っと。彼に抱き締められた。


「総、介く……?」

戸惑いながら彼の名前を口にすると、彼は私の耳元で、



「やっぱり、好きだ。別れたくない」



呟くように、でも確かに……そう言った。
< 153 / 160 >

この作品をシェア

pagetop