切ない春も、君となら。
「日本最難関で勉強することは、必ず私の将来の道標になるだろうからって。私も勉強好きだから難しいことたくさん学びたいし。あ、勿論、仕送りに頼るだけじゃなくて自分でアルバイトもするよ」

「いやいや、そうじゃなくて」

ふるふると首を振って、彼はどうも動揺している。

「現実を見ろ。お前が頭良いのは分かってるけど、さすがに東大なんて無理だろ。たとえ遠距離のままでも、俺はお前のこと……ちゃんと好きだし」

最後の方は声が小さくて、「聞こえなかったからもう一回言って」と言ったら、「言わない」と返される。本当はちゃんと聞こえてたけどね。好き、って言ってくれた。


「そこまで無理な目標とは思ってないんだけどね」

そう言って、私はハンドバッグの中から一枚の紙を取り出し、彼に手渡す。何これ? と言いながら、彼は折り畳まれた紙を開くと、再び瞬きを繰り返した。


「全統模試、八十一位?」

視線が紙に釘付けになっている彼に、私は「うん」と返した。


「いや、うんって。これ、去年の冬に実施されたやつだよな? 何で高一がこんな高い順位取れるんだよ」

「総介君が転校した寂しさを勉強で紛らせてたら、いつの間にか成績が伸びてた」

「いつの間にかってレベルじゃないだろ。春休み、アルバイトもしてたよな?」

「バイトも楽しかったよ。勉強の良い息抜きになったし」

「何なのお前。嫌味じゃないよな?」

嫌味だなんて酷い。もっと喜んでくれると思ったのになぁ。
思わずシュンとしていると、頭の上に心地良い重みを感じる。
ふと見上げると、彼の右手が私の頭に触れていた。
もう何度目かのこの感触は、今でも私の胸をきゅんと締め付ける。
< 159 / 160 >

この作品をシェア

pagetop