切ない春も、君となら。
これから毎日足を踏み入れるだろう教室内は、まだどこかぎこちない雰囲気が漂っている。
それでも微かに聞こえていた控え目な話し声たちは、私が教室に入った瞬間にピタ、と止んだ。
クラスメイトたちの視線が一気に私に突き刺さる。
居心地は悪いけれど、私に原因があるのだから仕方ない。こういう空気にはもう慣れたし……。
教室のあちこちからは「何、あの色?」「この高校にはああいう人いないと思ってたのに……」「最悪」などの声が小声で飛び交う。
それらを全て耳で回収しながらも、特に何も言い返さず、私は教室の前方の黒板に貼られた座席表で自分の席を確認すると、そこに座った。
名簿番号順で割り振られたその座席。
私は〝竹入(たけいり)〟だから、教室のちょうど真ん中辺りの席だった。
四方八方から注目を浴びてしまう嫌な席だけど、仕方ない。
そんなことを考えていると、隣の席に誰かが座った。
そっと顔を上げてその人の横顔を盗み見ると、隣に座ったのは男子だった。
目がぱちっとした二重で大きい。
眉毛は切れ長で、凛々しい雰囲気。
横顔だけでも、かっこいい人だっていうことがよく分かる。
真っ黒な短髪で、体格も良いし、何かスポーツでもやっていそうだと思った。
あんまりジロジロ見ている訳にもいかず、すぐに視線を自分の手元に移した、けど……。
友達になるチャンス、かな?
こういう時の第一声が重要なのかもしれない。
勇気出して自分から声を掛けてみようか……。
少し悩んだ結果、私は机の下で両拳をぎゅっと握り締め、隣の男の子に顔を向けた。
すると、その男の子もちょうど私を見ていて、バチっと目が合った。
嘘、もしかして彼も私に声を掛けようとしてくれていたところだったーー?
と思ったのも束の間。
「……何だその頭」
彼は低めの声でそう言うと、視線を私から逸らした。