切ない春も、君となら。
「……って、帰宅途中のこんな写真はいらねーよな」

彼が眉をひそめながらそう言ったので、私は慌てて

「い、いるっ! ていうか欲しい!」

と伝えた。
皆が起きない位のギリギリの音量は何とか保ったけど、つい声を荒げてしまった。
だって、せっかく撮った写真をすぐに消されてしまうかもしれないって思ったから。


彼の手元の携帯の画面を見れば、不意打ちのツーショットだった為にぽかんとした顔をしている、お世辞にも可愛く写ってはいない私。
その隣の近田君も、一ミリも笑ってはいなくて、真面目な顔をしている。
他の人がこの写真を見たら〝何の写真?〟ってなると思う。

でも私は、この写真を見るだけで、胸がきゅぅっと締め付けられるんだ。


そして、私が彼に言うべきことはもう一つ。


「あ、あのね……


その写真を送ってもらいたいので、近田君のラ……LINEを教えてもら、ら、えないでしょうか……っ」


心臓の音がバクバクとうるさい。
LINEのID、杏ちゃんとはあっさり交換出来たのに。
近田君に対しては、目眩がするほど緊張してしまう。


すると彼は。


「うん……




俺も聞きたいと思ってたから」




心臓が、またバックンって大きな音を立てる。

仕方なく交換してくれるとか、何かあった時の為に一応、とかじゃなくて、聞きたいって言ってくれたから……。


社交辞令、みたいな感じ、だよね。

だからその照れ顔やめて……。


勘違いしそうになっちゃうから……。



IDの交換をして、写真を送ってもらった後は、彼はまた寝ると言って目を瞑った。


私はやっぱり眠くはならなくて、寧ろさっきよりも目が冴えてしまった。



バスが学校に到着するまで、ほぼずっと、近田君とのツーショット写真を見て嬉しくなっていた。
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