切ない春も、君となら。
お昼休みにいつもの様に杏ちゃんとお弁当を食べた後、次の授業の準備をする為に、廊下にあるロッカーに教科書を取りに行った。

必要なものを取り出してロッカーを閉めたところで、誰かが隣に立った。

振り返ると、そこにいたのは松岡さんだった。


「あ、松岡さん。えと、松岡さんも次の授業の準備?」

私がそう聞くと、松岡さんはちらっと私に向けた視線をすぐに自分のロッカーに移し、「うん」とだけ答えた。


あれ。おかしいな。
いつもだったら目を合わせて笑顔で返してくれるのに。


朝話した時もちょっと様子がおかしかったし、私何かしたかな……?


いや、思い当たる節はないし、考え過ぎだよね!
こんな時こそ明るく話し掛けるべきなんじゃないかな!


そう思い、私は。

「今日さー、髪の毛ね、朝いつもより時間掛けて編み込みとかしてきたのに、さっき基紀君にぐしゃぐしゃにされたせいで台無しだよー。あの人ほんとに酷くない?」

自分の髪を軽くいじりながら、なるべく明るく笑顔でそう言った。


……すると。



「何それ。嫌味?」

「え?」

松岡さんは無表情のままでロッカーを閉めた。

嫌味? えと、どの辺が?


「ま、松岡さーー」

私を横切って教室に戻ろうとする彼女の腕を、反射的に軽く掴んでしまった。

だけど。


「触んないでっ」

その手を、振り払われてしまった。
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