切ない春も、君となら。

「はぁーー」

放課後。
ホームルームが終わった教室内は、下校する人や部活動に向かう人達で、徐々に人数が少なくなっていく。


松岡さんとのことを引きずって机で突っ伏して考え込んでいると、杏ちゃんが「はるはる、どした?」と声を掛けてくれる。


杏ちゃんは私の隣の、近田君の席に腰掛け、「何かあるなら杏に言ってみ」と声を掛けてくれる。


相談、してみようかな?
杏ちゃんなら、私とは違った視点から何かアドバイスくれるかも……。


その時、帰り支度をした松岡さんが私達を横切っていった。


思わず、「松岡さん!」と名前を呼んだ。
杏ちゃんに相談する前に、やっぱり自分でもう一度松岡さんと話したいと咄嗟に思った。


松岡さんは、私の呼び掛けに足を止め、ゆっくりと振り向いてくれた。



でも、その視線はここでも私に向かない。
意地でも向かないようにしている様にも見えた。
そして松岡さんは、杏ちゃんだけに視線を向け、

「また明日ね、伊川さん」

そう言って、教室から出て行った……。



「何だぁ? 声掛けたの、はるはるなのに、私にだけ挨拶したぁ」

杏ちゃんが本当に訳分かんなさそうにぽかんとしている。


松岡さんは、本当に私のことが嫌いなんだろう。

目も合わせたくない、挨拶もしたくない、そう思っているんだろう。


話し掛けてこないでとも言われた。


きっとこれ以上近付くべきじゃない。



でも。




……でも!





「ごめん、杏ちゃん! 先に帰ってて!」

「えっ、はるはる⁉︎」

私は勢い良く席から立ち上がり、そのまま廊下に飛び出した。
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