切ない春も、君となら。
「何が友達よっ! 何もかも私に勝ってるからって馬鹿にしてるの⁉︎」

顔を赤くして、呼吸を乱して怒鳴る彼女を見て、らしくないと感じた。でも、もしそう言ったら、私の何を知ってるのってまた言われそうだ。

それでも、これだけは言わずにいられなかった。


「ごめん……勝ってるって何が? どこら辺が?」

は? と言ったままの口をぽかんと開けたままの表情で、松岡さんが私を見る。

いやいや、ぽかんとしたいのは私の方!
だって、私の何が松岡さんに勝ってるって?


外見も松岡さんの方が清楚で美人だし、足も長いし、言うまでもなく先生達からの評価も松岡さんの方が高いし、松岡さんの方が友達多いし。私が勝ってる要素、何も思い付かない。


すると彼女は。


「……成績っ」

「え?」

「一番だったんでしょう! 私は、二番だった……。寝ないであれだけ勉強したのに、どうして全く勉強してなさそうなあなたが一番なの⁉︎」


そうか、成績……。

勉強のことを勝ち負けって思ったことはあまりないけど、順位で言うのなら確かに私が勝ったことになるのかも。


「松岡さん、私はーー」

言葉を紡ごうとしたけど、彼女は下を向いたまま「それに」と、更に口を動かす。

そして。

「それに、基紀君のことだってーー」




ん?




「基紀君?」


私がその名前を口にすると、松岡さんはハッとした様に肩を揺らし、耳まで真っ赤にしたかと思うと、再び私に背を向けて、今度は走り出す。


「ま、待って!」


私も同じ様に駆け出す。
そして、階段を半分降りた踊り場のところで、彼女の腕を後ろから掴むことに成功した。

今度は、振り払われなかった。
とりあえず安心する。

松岡さんは私に背を向けたまま足を止めている。
彼女の耳までがまだ赤いのが、後ろからでも分かる。
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