切ない春も、君となら。
「えと、まず。私、勉強はしてる!」

きっぱりとそう言うと、松岡さんが顔だけちらっとこっちを向いた。
少し、驚いた様な表情。
そうだよね。こんな外見の人間がテスト勉強する様には見えなくてもおかしくなよね。

でも。

「良い点数が取りたくて、私も寝る間を惜しんで頑張ったよ!」

まあ、友達がいないからゴールデンウィークが暇過ぎて勉強する時間が有り余ってたからっていうのもあるけど……とも付け足しておいた。


私が話を終えても、彼女は私を見たまま、何も言わない。

その瞳は、少し戸惑っている様にも感じられたけど、彼女が今何を思っているのか、はっきりとは分からない。


だけど伝えたいことはもう一つ。


「基紀君のことだけど……」

半信半疑だったけどその名前を出すと、松岡さんの身体がビクッと大きく揺れた。
一瞬にして彼女の顔が真っ赤に染まり、顔だけバッと背けられた。

触れられたくないことだったのかもしれないけど、もし誤解しているならはっきりとさせたい。


「えーと、私、基紀君のことなんか何とも思ってない」

なんか、は言い過ぎだったかもしれないと思いながらも話を続ける。


「基紀君だって、私のこと何とも思ってないからね。それ言ったら、基紀君と杏ちゃんの方が仲良くない?」

「……伊川さんとは幼馴染みで昔からあんな感じらしいし……」

「私は毎日からかわれてるだけだよ。私、他に気になる人いるしっ」

あ。
納得してもらおうと思うが故に、つい言ってしまった。

私のことなんかどうでもいいよね。ここで言うべきことじゃなかったかな⁉︎


と思ったけど。



「……本当?」

松岡さんが、ようやく私と目を合わせてくれた。
< 58 / 160 >

この作品をシェア

pagetop