切ない春も、君となら。

その後私達は、人目を気にして裏庭までやって来た。

建物の陰になっていて涼しいこの場所は、お昼休みなんかはお弁当を食べる生徒や休憩する生徒が結構多いけど、下校時間を過ぎてる現在は、私達以外は誰もいない。


「基紀君は……初めは見た目も話し方も、何かチャラそうな人だなって思ったから少し苦手だったの」

裏庭の木製ベンチに二人並んで腰掛けると、松岡さんがゆっくりと話し始めた。


「でもハイキングの時に、私のこと清楚とか、マドンナみたいとか、褒めてくれたじゃない? その場を盛り上げる為の冗談だっていうのは分かってるんだけど、何か嬉しくて。それからちょっと……気になり始めちゃって」

こんな些細な理由で好きになるの、おかしいかな? と松岡さんは言うけれど。


「全っ然おかしくないよ!
私、今まで男の子のこと好きになったこと殆どないけど、ちょっとしたことでドキドキしたり気になったりする気持ちは分かる!」

あ、つい熱を込めた言い方になってしまった。
松岡さんは、少しぽかんとした顔で私を見つめる。

そして、すぐに。


「竹入さんの気になる男の子って、誰?」

「うっ」

やっぱりそこ、聞かれちゃうよね。
今の私、明らかに誰かのことを思い浮かべながら熱弁してたし……。

それに、松岡さんからは基紀君のことを聞いたのに、私だけが話さないのは不公平だよね。


「わ、私は……えと、ち、近田君……のことが気になって、いて……」
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