切ない春も、君となら。
「カラオケボックス出た時に思ったんだけど、薄暗い所だとお前の金髪も目立たないよな。金じゃなくて普通に黒っぽく見える」

「え? う、うん。そうだろうね」

「……黒髪の方が似合うと思うぞ」


じゃあなっ、と言って、彼は今度こそ私に背を向けて駅まで向かった。少し小走りで。


ふわぁ、びっくりした。でも嬉しい。だって、こうした方がいいとか、こっちの方が似合うとか、そういうことを好きな男の子が考えてくれるのってドキドキする。


……でもこの髪は……。


嬉しいのに切ない。そんな思いで髪先を何となく触っていると、スカートの中に入れていた携帯が震えた。


LINEかな。誰からだろうと思い、見てみると。



【これからカラオケ!♡♡いつものとこ‼︎】


莉菜からのメッセージだった。


いつもの所、というのはさっきまで私達がいたカラオケボックスとは違う場所。もっと雰囲気の悪い、煙草臭い場所。あそこの店長が莉菜に惚れてるから、莉菜にとってはあの店が都合いいらしい。


また呼び出されてしまった。


行きたくない。



……でも逃げたい訳でもない。




行こう。

だけど怖いから従うのとは違う。




ちゃんと自分の気持ち話そう。


勇気ならもらった。

近田君に。



『黒髪の方が似合うと思うぞ』



今度こそ自分らしい自分になる。
そして、髪の毛の色を元に戻すんだ。
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