切ない春も、君となら。

その後、私は呼び出されたカラオケボックスにやって来た。

前に来たのは、近田君と一緒に帰ったあの日。

相変わらず煙草臭くて、空気の悪いお店だ。

でもまだそう遅くない時間帯だからか、学校帰りの高校生の姿や、若いお客さんでそれなりに賑わっている感じだ。


中学生の時から莉菜達に連れられて通い詰めだった為、店長とも店員ともすっかり顔馴染みになってしまった。

受付で店員に莉菜と泉のいる部屋の番号を教えてもらい、そこへ向かう。


ドクン、ドクンと胸がやけに強く脈打つ。

緊張し過ぎて気持ち悪い。


でも、もう逃げたくない。



コンコン、と部屋をノックしてからゆっくりとドアノブを回す。

戸を開けると、泉が今流行りのJPOPを歌っていて、グラスを片手にジュースを飲んでいた莉菜が私に気付いた。


「春日遅いよー!」

莉菜は笑顔でそう言ってくれるけど、今日も私にお金を支払わせるつもりで呼んだであろうことは当然分かってる。


ドアを開けたまま、その場から動かない私に、莉菜は怪訝な顔で首を傾げる。


「春日?」


緊張して、息が上手く出来ない。

足が震える。


それでも。



「……とりあえずこっち来たら?」

にこっと笑って、優しい声で莉菜が言う。ぽんぽん、と自分の隣のスペースを叩いた。

だけど目が笑ってない。莉菜は昔から勘がいい。きっと私が今何を考えているか、何を言おうとしているか、何となく分かってる。


でも、だからこそ言うんだ。



「……二人に会うのは今日で終わりにしたい」
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