切ない春も、君となら。
言った。言ってしまった。でもきっと……私の選択は間違ってない。


泉が歌うのをやめ、演奏を止める。


部屋の中がシン、と静まり返る。


莉菜はまだ笑っている。


「どうしちゃったのー? 春日ー」


さっきまで口を付けていたグラスを手にしたまま、彼女が腰を上げ、私の正面に立つ。

彼女は笑顔なのに、その笑顔が怖くて、私は思わず後ずさってしまう。足が室内から廊下に出る。
情けない。でも、逃げることはしたくない。


「何かあった?」


眉を下げて、控え目に微笑む。

わざとらしい心配顔。


私は、激しく脈打つ心臓を何とか抑えようとしながら、再び口を開く。


「……ずっと言いたかった。
私は二人のことが怖くて、ずっと二人に従ってた。
派手な格好は嫌いだし、二人の為にお金を出すのも嫌だし、ストレスの捌け口にされるのも嫌」


莉菜が、一歩私に近寄る。


びく、と思わず肩を震わせてしまった私の右手に、莉菜の手がそっと重なる。

莉菜は、優しく私に触れた。


「大丈夫? 震えてるよ?」

相変わらず笑みを絶やさない。

はたから見たら、本当に優しく心配してくれている様に見えるかもしれない。
でも実際は勿論そうじゃない。
私のことを完全に見下した、自分が勝ち誇った、そんな余裕と笑顔。


私の方が立場が弱いのは百も承知だけど、ここで負けたらいけない。


すると莉菜が。
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