【短編】 桜の咲く、あの日に
さん
* * *
私は小さい頃から人と話すのが苦手だった。
名前を聞かれても答えられなくて、全部お母さんに任せきりだった。
お父さんはそんな私を見て、情けないとか惨めだとか、思ったのかもしれない。
議員を仕事とするお父さんからしたら、確かに私の存在は変だった。
お父さんに、自分の子供だと認識してもらえてないって感じることも、幼い感覚だけど何度もあった。
名前でなんて、「サキ」なんて呼んでもらえない。
お父さんは私に冷たくあたって、それがきっかけで、お母さんと別れてしまったのかもしれない。
…そうだ、いつか聞いた、お母さんとお父さんの口喧嘩。
ううん、口だけじゃなかった、お父さんはお母さんに怪我をさせたこともあったと思う。
そんなに、お父さんは私が嫌いだったの?
私を大事にしてくれるお母さんも、嫌いだったの?
私が嫌いなら、私を殴ればいいじゃんか。
なんでお母さんなの?
ねぇ、私には分からないよ…。
あのとき、泣いているお母さんに代わって、お父さんに何か言いたかったけど、私にはそんな勇気はなくって。
お母さんは、私のせいで起きるお父さんの暴力が嫌で別れた。
苦痛に耐えられなくなって離婚した。
私の頭の中でできた、証言は含まれない不確かなシナリオだけど、これしか私には思いつかなくて。
というか、これ以外ないと思うから、ほぼ確信だよ。
私のせいでお母さんは今もあんなに苦労しているし、お父さんを不快にさせてしまった。
だから私は、変わらなきゃ、って、思った。
変わらなきゃ、
変わらなきゃ…。
そんなとき、お母さんの仕事の関係で、ここに連れてこられた。
小4の春、桜の季節。
都会あたりに生まれ育った私にしたら田舎って、ちょっとわくわくした。
可笑しいかな?
公園に遊びに行ったら、誰もいない、すごく静かな公園。
私の住んでいるところとは全然違くて、ちょっとびっくりしたなぁ。
風と、遠くを走る車の音しかしない。あっあと、鳥の鳴き声も聞こえたな。
けど突然、足音がして。
最初は恐怖。
誰か来る、誰か来るって…。
風に紛れて、声がした。
男の子の、声変わりをしてない高い声。
私に…かな?
緊張したけど、思い切って振り返ってみた。
そこに立っていたのが、樹(たつき)くん。
苗字なんて知らないけど、私の最初で最後の友達だと思われる男の子。
この子の前でなら、私はちゃんと喋れるんだ。
なんでかな? なんでもいいや。
もっと喋りたいなぁって。
早く、来年の春にならないかなぁ…。
私は小さい頃から人と話すのが苦手だった。
名前を聞かれても答えられなくて、全部お母さんに任せきりだった。
お父さんはそんな私を見て、情けないとか惨めだとか、思ったのかもしれない。
議員を仕事とするお父さんからしたら、確かに私の存在は変だった。
お父さんに、自分の子供だと認識してもらえてないって感じることも、幼い感覚だけど何度もあった。
名前でなんて、「サキ」なんて呼んでもらえない。
お父さんは私に冷たくあたって、それがきっかけで、お母さんと別れてしまったのかもしれない。
…そうだ、いつか聞いた、お母さんとお父さんの口喧嘩。
ううん、口だけじゃなかった、お父さんはお母さんに怪我をさせたこともあったと思う。
そんなに、お父さんは私が嫌いだったの?
私を大事にしてくれるお母さんも、嫌いだったの?
私が嫌いなら、私を殴ればいいじゃんか。
なんでお母さんなの?
ねぇ、私には分からないよ…。
あのとき、泣いているお母さんに代わって、お父さんに何か言いたかったけど、私にはそんな勇気はなくって。
お母さんは、私のせいで起きるお父さんの暴力が嫌で別れた。
苦痛に耐えられなくなって離婚した。
私の頭の中でできた、証言は含まれない不確かなシナリオだけど、これしか私には思いつかなくて。
というか、これ以外ないと思うから、ほぼ確信だよ。
私のせいでお母さんは今もあんなに苦労しているし、お父さんを不快にさせてしまった。
だから私は、変わらなきゃ、って、思った。
変わらなきゃ、
変わらなきゃ…。
そんなとき、お母さんの仕事の関係で、ここに連れてこられた。
小4の春、桜の季節。
都会あたりに生まれ育った私にしたら田舎って、ちょっとわくわくした。
可笑しいかな?
公園に遊びに行ったら、誰もいない、すごく静かな公園。
私の住んでいるところとは全然違くて、ちょっとびっくりしたなぁ。
風と、遠くを走る車の音しかしない。あっあと、鳥の鳴き声も聞こえたな。
けど突然、足音がして。
最初は恐怖。
誰か来る、誰か来るって…。
風に紛れて、声がした。
男の子の、声変わりをしてない高い声。
私に…かな?
緊張したけど、思い切って振り返ってみた。
そこに立っていたのが、樹(たつき)くん。
苗字なんて知らないけど、私の最初で最後の友達だと思われる男の子。
この子の前でなら、私はちゃんと喋れるんだ。
なんでかな? なんでもいいや。
もっと喋りたいなぁって。
早く、来年の春にならないかなぁ…。