【短編】 桜の咲く、あの日に
   *  *  *


 僕は、学校に友達がいない。

 小学校の頃からいなかった。


 まぁこんな田舎だから、もともと子供の人数は多くはないけど、まずきちんと笑って話せるような人もいないんだ。


 浮かべられても、上面だけの愛想笑い程度。



 感情を表に出さないわけじゃない。


 ただ、表に出すような感情を作らないっていうか。


 そもそも、名前すら覚えてもらえてない気が…。


 「樹」なんて呼ばれたこと、数える程しかないって。



 何だか、僕に人が近寄りにくいのか、僕が嫌われているからか、分からないけど本当に友達がいないんだ。


 別に虐められているわけでもないから、特に苦痛ではないって思ってる。


 学校でボッチなのは、もうホント慣れっこだし、女子と違って男子はそんなに群れないから。



 それに、家族がいる。


 父さんと母さんは、気にかけてくれる優しい人だし、ばあちゃんも若干ぼけてて面白い。


 4人で囲う食卓はすごく楽しくて、学校の話題なんてなくたって話はいくらでも続く。


「将来都会に行ったら、お友達いっぱい出来るよ」って。


 都会出身の両親は言う。


 僕も、昔は友達を多く作ろうって頑張ったけど、今はその言葉を信じて諦めた。


 だっていつかはきっと、ここを出ていくから。



 そんなとき、なんとなく公園に行ってみようと思った。


 本当にただ、思い立っただけ。


 そしたら、知らない女の子が1人、桜の前に立っていた。


 歳が近そうで、話しかけなきゃって、なんだか思った。


 だから、ちょっと緊張したけど声をかけてみたんだ。


 そう、その子が最初の友達のサキ。


 緩い2つ結びの女の子。



 僕は、サキに出会って思ってしまった。


 サキと毎年会うたび、何かを話すたび——友達ってこんな良いものなんだ、って。


 思ってしまった。


 サキと話すのは変に力が入らない。


 学校の友達とは全然話せないんだけどな…。


 なんでかな? なんでもいいや。


 もっと喋りたいなぁって。



 あぁ、早く来年の春にならないかなぁ…。


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