candy×candy
 時折、小野先生にヒントを貰いつつなんとかテストを終えた。

「よっし。これでOKです。お疲れ」

「はい、ありがとうございました」

 この一言二言を交わすのにさえどぎまぎして、とてつもない喜びを覚える。

 帰る前にトイレに行こうと教室を出る。

 まだ気持ちがぽわぽわしてて、足が地についてない気がする。

 個室に入ると口から深い息が漏れた。

 知らないうちに体に力が入ってたんだと思う。

 やっぱ、緊張するな...

 未だに体の火照りが収まらない。

 少しだけ暇を潰してから用を済ませた。


 教室に戻ると、先程まで私の座ってた席に人影が突っ伏している。

 そっと覗くと、小野先生が気持ち良さそうに眠っていた。

 小野先生の横顔を柔らかな夕陽が照らし出す。

 綺麗なコンディション。

 そう思うのと同時に、先生の頬へ手を伸ばしていた。

 ほとんど反射的と言っていい。

 赤ちゃんみたいな、スベスベした感触が指に伝わる。

 初めて触れた感触。

 この感触をいつでも味わえる奥さんに、痛みにも似た嫉妬を覚える。

 下に指を滑らせて、唇に指先で触れる。

 ここに、唇で触れられたら。

 ふっとそんな思いが頭に過って、すぐに打ち消す。

 いけない、そんなこと。しちゃいけない...。

 そっと辺りを見渡す。

 オレンジに染まった教室。二人きりの静寂。

 そう。誰も見てない。

 とくん、とくん

 心臓が主張をし始める。

 わかってる。痛いほど、あなたがいることはわかってる。

 それでも収まらない。

 その音に誘われて、1度だけなら、なんて悪魔の囁きが脳裏に広がる。         
 とく、とく、とく、とく

 間隔が短くなって、徐々に体温が上がっていく。

 私は身を屈める。

 骨がぎく、と嫌な音をたてた。

 
 先生の唇にキスを落としたーーー。 

 
 それは一瞬だった。

 ーーーあ...

 気付いてバッと体を起こす。

 私、何しちゃったの...。 

 先生はまだ起きてない。

 誰かがいる様子もない。

 私は逃げるように教室を出た。



 一瞬だったのに、優しげな温もりだけは妙に唇に残っていて。

 少し湿った、柔らかい感触。

 瞳を閉じると思い浮かぶ。



 夕陽だけが、私たちを見ていた。 
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