candy×candy
 五歳の頃。
 
 私はなんでもやりたがる、好奇心旺盛な子供だった。

 だから、回覧板を回すのも私の仕事だった。
 私がどうしてもやりたくて。

 私はその仕事が大好きだった。
 
 なにかを任された嬉しさと、それから...。


 隣に住んでいた、お兄さんに会うのが楽しみだったから。

 お兄さんは私が行くといつも、“少し苦いかもしれないけど“って

 ライネオスのコーヒー飴をくれた。

 当時の私にはもちろん苦かった。

 けど、お兄さんが飴をくれるのか嬉しくて、我慢して舐めていた。
 
 お兄さんは落ち着いた雰囲気で、背がうんと高かったことが記憶にある。

 ...あと、いつもレモンみたいな匂いがしていたのを覚えている。

 
 絞りたてのレモンのような、爽やかな甘酸っぱい香り。

 子供だったからそう見えたのかもしれない。

 それでも五歳の私には格好いい大人の男性に見えて、常にお兄さんのことを考えていた。
 
 お兄さんに会いたくて、頻繁に家の周りを歩いてみたり、回覧板を回しに行ったついでに遊んでって言ってみたり。

 とにかく一緒に居たくて、回覧板が来るのが待ち遠しかった。
 
 それなのに顔は覚えてなくて、名前も知らない。
             
 聞いたのに忘れてるのか、聞かなかったのかも知らない。
 
 お兄さんは私が保育園を卒園するのと同時に引っ越してしまって、もうどこにいるのかわからない。
 
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