candy×candy
 教室は授業が始まる2分前になっても騒がしい。

 学級委員長の梓が声をかけるけど収まらない。

「早く先生来ないかしら...」

「お疲れ、梓」

「あんたもちょっとは仕事してよ」

 呑気な弥太郎をじろりと睨み、梓は前を向いた。

 伊世 弥太郎(いせ やたろう)は私のもう一人の幼なじみの男の子。

 かなりの長身で、145センチくらいしかない梓と並ぶとさらに大きく見える。

 その微笑みは優しげでいかにも王子様って感じがする。

 女子からも男子からも好かれる人気者だ。
 
 頭はそんなに良くないけど運動が得意で、梓とはどんな意味でも凸凹コンビだ。

 そんな微笑ましい二人を眺めながら、私は教科書を取り出す。

 数字。苦手で、一番好きな教科。

 ちら、と時計を横目にみる。

 まだ来ないかな。まだかな。

 そう思って視線を下ろしたのと同時に、教室の扉がガラガラと音をたてて開いた。

 その瞬間、心臓が跳ね上がって全身の血液を沸騰させようと炙り出す。

「じゃ、始めまーす」

 落ち着いた声。

 すっとした切れ長の瞳。

 通った鼻筋に薄い唇。

 筋肉質の日焼けした体。

 薬指に光る指輪。


 私を初恋の思い出から連れ出してくれた、私の好きな人。


 小野 佐吉(おの さきち)先生。
< 6 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop