candy×candy
「亜子ー」


 授業が終わって掃除の準備をしようとしたところで、小野先生に呼び止められた。

 また賑やかになる血流を抑えて、先生のもとへ駆け寄った。

「亜子さ、放課後残ってて」

「放課後...ですか」

「うん。教室に。なんか都合悪い?」

「いえいえ!」

 都合が悪いどころか大歓迎です。

「じゃあ、よろしくー」

 先生の背中が見えなくなるまでそこに突っ立って、ボーッとしていた。

 嬉しい。

 理由がなんであれ、先生と二人で残れるなんて...。

 考えただけでも心臓が爆発しそう。

 有頂天な気分で箒を取り出すと、梓が黒板消しを持ったまま呆れた顔で私を見ていた。

「ほんとあんたって...」

「ふん。なにか文句ある?」

「簡単よね」

「簡単で結構!」

 今の私にはどんな悪口も通用しない。

 放課後の予定のおかげでメンタルが最強になっている。

 先生と二人きりになれるなら簡単も悪くない。

 しかし、次の梓の一言でその幸せは形を崩し始めることになる。

「あんた、多分補習よ」

「...補習?」

 アホのように繰り返す私は顔までアホになっているらしく、梓に思いっきり笑われた。

 それはともかくとして、補習?

 なんの補習なのか、さっぱり分からない。心当たりがない。

「もー、なんの補習なの?」

「数学の単元テスト。2章の」

 一次関数の単元テスト...。

 必死で記憶を辿る。どんな結果だったっけ。

「あっ!」

 ぴん、と私の脳裏に記憶が甦った。

 確かに私は前回の単元テストが酷くて、明らかに追試の点数だった。

 でもあれはかなり難しくて、私だけじゃないはず。

「なんで私だけ?」

「あんたこの前休んだでしょ。そんときやっちゃったの」

「あー...」

 私が休んだのはほんの数日前だ。

 その時に終わっていたとは...。

 嬉しいような逃げたいような複雑な気分。

「ま、頑張ってね」

 梓のやけに明るい声を背中に受け、私は静かに床を掃き始めた。
< 9 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop