またこの場所で…



「だから、勝つことってそんなに大事なことなの?」



妃波くんはもう一度私に同じ質問をぶつけてきた。



でも私はすぐには答えられなかった。



「今出来ることは限られているんだから、別に失敗しても次頑張ればいいんじゃない?」

「でも……」

「一葉ちゃんは泳ぐの好き?」



妃波くんの言葉に戸惑っていると、更に妃波くんに問いかけられる。



泳ぐのは好き。



小さい頃に観に行った人魚姫の演劇を見て、私も人魚姫みたいに水に中を自由に泳ぎたくてすぐスイミングスクールに通い始めた。



始めたきっかけは子供らしいけど何より水と遊ぶのが好きだった。



「うん」



妃波くんのこの問いかけには迷わずに頷いた。



即答だったのがおかしのかったのか妃波くんはクスリと笑った。



「ならいいじゃん。
こんな大きいところで、泳げるんでしょ?
楽しまないと損だよ」



楽しむ…



今まで考えたことなかった。



大会で楽しんで泳いだことなんてなかったかもしれない。



そうだ。楽しまなきゃ。



せっかく大好きな水泳をしているんだから楽しく泳がないと。


< 62 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop