またこの場所で…
会場からは盛大な拍手が巻き起こっていた。
自分の指定されたレーンに向かって歩いていけば見知った安心する声援が聞こえてきた。
「一葉ちゃーん!頑張れー!」
いつもと同じスタートとゴール付近の席に座る美織と楓月くんがいた。
美織はこれでもかというくらいに大きく手を振ってくる。
私はいつものように美織に親指を立ててやってやるよという合図をする。
もう一度観客席を見ると観客席の通路に立っている妃波くんを見つけた。
これだけたくさんの人がいるのに妃波くんを見つけられたのが不思議だったけど、微笑んで頷いてくれた妃波くんを見たらそんなのどこかにいってしまった。
飛び込み台に立ち、ゴーグルを装着する。
スタートの合図とともに、私は水の世界に飛び込んだ。
いつもの大会よりも体が軽く感じて、いつもより速く泳げている気がした。
でも調子に乗らずにいつものペースで泳いでいく。
最後のターンをしてゴールにタッチすると、私の名前の隣には3の数字が表示されていた。
嘘…3位?
今までとったことのない順位にとったことのないタイムが表示されていた。
やった…!自己ベスト更新だ!
嬉しくてすぐに美織の方を見て拳を大きく突き上げる。
美織はまた笑顔で手を振ってくれた。
そしてさっき妃波くんがいたところを見たけど、そこに妃波くんはいなかった。
美織と楓月くんの隣にもいなかった。
「お姉ちゃんすごい…ってちょっとお姉ちゃん!?」
私は二花からタオルを受け取って会場を出た。