恋におちる音が聞こえたら
……そのあとのことはよく覚えていない。気がついたら学校の外を歩いていて、顔が濡れてた。あわてて袖で涙を拭う。さいわい近くには誰も居なくてほっとした。
「……、……」
はああ。あんなことで動揺して泣くなんて。恥ずかしい……。
……あたしの顔、泣いたから少し赤くなってるかもしれない。鞄から手鏡を取り出して覗き込むと、案の定目が充血して赤くなっていた。……うわ、ちょっと目立つかな。
このまま帰ったらハナさんが心配するかもしれない。居候してる身としてはでるきかぎり迷惑はかけたくない。
「……寄り道して帰ろ」
たしか近くにコンビニがあったはず。少し時間をつぶしてれば腫れも引くだろう。
――――――と思ったものの。
ああああ、あたしのバカ!! 寄り道なんてするんじゃなかった……。寄り道なんかしなければ“こんなこと”にはならなかったかもしれないのに……!!!!
「…………なんで……」
がさり、右手からコンビニのレジ袋が滑り落ちる。中身はのど飴が一袋入ってるだけで、割れてるかもしれないけどこの際どうでもいい。
あたしは目の前に立っている人物から目が離せずにいた。それは相手も同様らしく、あたしの顔を見たまま固まっている。
「……なんでお前がここにいんだよ」
その低い声は、ついさっき聞いた声。でも今は違う。さっきより一層不機嫌で、あきらかに怒気がこもってる。
「……ぁ、……あんたこそ何でッ」
負けじと問いかけてみると、ひくり……、と彼の眉間の皺が深くなる。その殺気にも似た敵意に、咄嗟に口を噤んだ。