恋におちる音が聞こえたら
「お前、グルだったのか」
「……えっ?」
“グル”?? ……何のこと。
「とぼけるな。家にまで押しかけてきてどういうつもりだよッ。そんなに人のこと付けまわして楽しいのか?」
“家にまで”……?? ……え、どういうこと??
……あたしはちらりと横を向いて確かめる。表札にはローマ字で“東雲”とかいてある。あたしが今居候している家だ。彼の家じゃない。
じゃあどういうこと。なんで彼はあたしに対してこんなにも怒ってるの。
「……ねえあの、……本当に……意味がわからないんだけど……誰かと勘違いしてるんじゃ……」
「っ……いい加減にしろよ!!!!」
勇気を振り絞って出したあたしの声は、彼の怒声によってかき消された。
その途端、必死に押しとどめていた恐怖が一気に襲ってきて、脚が竦んでその場に崩れ落ちる。今すぐ彼の前から……その場から逃げたいのに、脚はかたかた震えるだけで言うことをきいてくれない。
……ああーーーー。居候なんてするんじゃなかった。