恋におちる音が聞こえたら
「ほら何してるの桐也」
「……、……え?」
「女の子が倒れてるのに、手も貸さないの?」
「……」
……いやそんな気まずそうな顔しないでよ。あたしだって気まずいんだから。
ハナさんがその場から立ち上がって横に退くと、桐也があたしの目の前まで歩いてくる。それから仏像のごとく沈黙を保ちつつ、あたしに右手を差し出した。
「……ぁ、……りがとう」
あたしはできるかぎりの笑みを浮かべて、彼の手に自分の手を重ねた。思ってたより大きかった手にしっかりと手を握られ、あたしは脚に力を入れて立たせる。
「ッ……?!」
……腰が抜けてたこと忘れてた。
気付いたときには遅く、身体は前によろけぼすんと桐也の胸板に顔面がぶつかる。互いの手は、まだ繋がれたまま。
……おそるおそる顔をあげてみると、彼は背景に星を散らしながら爽やかに笑っていた。
…………うわあ。……やらかした。
「大丈夫?」
「は、……はい…………うん」
このとき横から“あらまあ……”とハナさんの乙女チックな声が聞こえたような気がしたけど、気のせいにすることにした。