ラスト・ロマンティカ
プラマイゼロ
 あか、あか、あか、しろ、あか、あか、あか、しろ。
 その繰り返し。あと26回。
 あか、あか、あか、しろ、あか、あか、あか、しろ、あか、あか、あか、しろ、あか、あ
「ゆっうびーんでーす」
 甘ったるいベリージャムのような高い声に反し、扉の開けかたは最低だった。
 あまりの衝撃に外れた扉の蝶番が床を転がる。
神の御前である教会の玄関にしては建て付けが悪かったのだろうか。
「ゆーっびん、ゆーっびん。おいこらジジィ!」
 長いツインテールをゆらし、レースをふんだんに用いた服を着る少女はその愛らしい外見とは裏腹に非常に口が悪かった。
「ラポニールさん……これで何度目ですかドア壊すの」
 ようやくこの教会の最高責任者である司教が言葉を発した。
「ッせぇ!39回目だ。つかゆーびん!」
 律義に数えているあたり……別にえらくもない。
 ラポニールというらしい郵便配達人は、司教の前に勢いよく茶封筒をたたきつけた。
「というかジジィて……私まだ30代ですよ?」
「あと2年と7ヶ月の称号だろうが。つか報酬」
 遠慮なく手を差し出すラポニール。普通の配達人であればもらわぬものを。
「ふーむ……これでどうですかねぇ」
 小さな手に落としたのは紙幣でも貨幣でもなく、桃色と白のうずもようが愛らしい棒つきアメ。
 俗にいう、ペロキャン。
「……悪かねぇ」
 満足らしい。
 むしろ司教はいつもあんな物を常備しているのだろうか。
そんな彼は茶封筒を見て真剣な顔をしていた。
「バーラディト鉱山……とうとう、来ましたか」
「事務報告の一種だ」
 ゆっくりと、その封を開けた。
 一方のラポニールは美味そうにアメをかじっている。
「……そうですか。ジョージとアンドレが……」
 確か、教会の手伝いと卵売りの仲介者だというのを聞いた気がする。
「落石事故だとよ。運のわりー」
「遺体の方は?」
「同事故の他犠牲者16人と一緒にまるごと火葬したらしい」
 もうアメは食べ終わったらしく、棒を手中で弄ぶラポニール。
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