ラスト・ロマンティカ
「ま、約7500人といわれる強制労働者の中でも18人。少ない方じゃねぇか」
 それを聞いた司教は目を閉じ、緩く首を振った。
「数に囚われてはなりません。あなたの隣に犠牲者の知り合いや家族がいるのかもしれないのですよ」
「てめぇの隣に犠牲者に酷いコトされて、その死を喜んでる奴がいるかもしれねぇな」
 この少女、かなり負けず嫌いらしくなかなかの減らず口だ。
「つか、んなコトよりよ……」
 ラポニールの碧い眼光がこちらを射抜く。
「さっきっから俺らを見てやがるあのガキはなんだ!」
 人を指差すのは、よくない事だと思う。
 そんなことを考えていると、司教が説明を加えてくれた。
「彼はこの間私が拾ったのですよ。いやぁ生ゴミにまみれて大変に汚かった」
 まるで小銭を拾ったかのような口ぶりだ。
 いや、小銭であればこの人はもう少し喜ぶだろう。
「へー。ふーん。ほー」
「ですが彼には問題がありましてね」
 妙に静かになった彼らを無視して作業を再開する。
「どうやら彼は、自分の名前を含めた世間一般の常識を知らないようでしてね」
「それって……」
 あか、あか、あか、しろ、あか、あか、あか、しろ
「筋金入りの箱入り息子ってことじゃねぇか」
「…………」
 しろ、あか、あか、結び目。完成。
「ようするに記憶喪失みたいですよ」
「おいこらジジィ。今の俺の台詞無視しやがったな」
 今回のビーズアクセサリーはなかなかに良いできだと我ながらに思う。
「私、天然ボケは嫌いなんです。それより厄介なのは、彼自身が忘れたことすら忘れてしまったという事です」
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