恋ふうせん
白井さんは、悲しそうな笑みを浮かべてうつむいた。

「じゃ、最後に聞かせて下さい。咲さんは、僕のことを今どう思っているのか。」

白井さんはいつも以上に強い眼差しで、私と視線を合わせた。

言ってはいけない本当の気持ちに静かに蓋をする。

「一人の人間として、尊敬しているし、好きです。」

白井さんの強い眼差しは、光を衰えることなく、しっかりと私の目をとらえたまま離さない。

私の言葉の奥にある、本当の気持ちを探すように。

視線を合わせたまま、白井さんは顔色を変えず静かな優しい声で言った。

「今夜だけ。最後に今夜だけ、僕に時間を頂けませんか。」
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