恋ふうせん
急に薄暗さが増して、振り返った白井さんの顔もはっきり見えない。

会社帰りのサラリーマン達は、そんな私たちには見向きもせず通り過ぎていく。

私たちは本当に今ここに存在しているの?

白井さんは、私の肩を抱き寄せて、人通りを避けるようにクスノキの影に私の体を押しつけた。

その瞬間、考える間もなく白井さんの顔が近づいてきた。

キスをした。

静かな優しいキスだった。
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