恋ふうせん
「忘れないで。」

そう、つぶやくと、白井さんは、私から体を離し、

「元気で。」

と、うるんだ瞳を向けて言った。

そして、そのままうつむくと、私に背を向けてゆっくりと公園の向こうの雑踏へと消えていった。

これは、夢?

白井さんが去った後、急に通りから車が走る音、人混みの喧噪が私の耳に入ってきた。

現実に引き戻されていく。

力が抜けて、クスノキの前でへなへなと座り込んでしまった。

そして、また私の目からは涙があふれてくる。

そっと、右手を自分の唇にあてた。

白井さんの優しい柔らかい唇が、さっきまで触れていた場所。

私はそっと涙をぬぐうと立ち上がった。

帰らなくちゃ。

スカートの裾についた土を払って、私もまた公園の外にある雑踏へ向った。

さようなら。白井さん。
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