恋ふうせん
「大杉さん。」

少し離れた場所で低音の声が響く。

顔を上げて、声の方に目をやると、部長が手招きしていた。

「はい。」

慌てて、部長の方へと小走りで近づいた。

「人事部から回ってきたんだけど、大杉さんのご主人転勤決まったんだってね。」

「はい、実は、来月に北海道へ行くことになってしまいまして。」

「あ、いや、もう退職しちゃった白井くんからメールで連絡があったんだけどね。こういうことは、人事部に通すより先に僕に話してもらわないと困るねぇ。」

部長は半笑いしながら、私の顔をまじまじと見やる。

まるで私と白井さんの関係を疑っているような、興味本位のいやらしい目つきで。
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