恋ふうせん
白井さんは、旦那に丁寧に会釈をした。

旦那は私の方を驚いた目でチラッと見る。

私はとりあえず、何も知らないふりをするべく首を横にぶんぶんと振った。

「ま、どうぞお上がり下さい。」

旦那は意外にも落ち着いた声で、白井さんを家に招き入れた。

「夜分遅くに申し訳ありません。」
 
白井さんは、静かに玄関に入ってきた。

その横顔は幾分やつれてみえる。

そして一度も私の方に視線は向けられなかった。

リビングのテーブルに向かい合って座る旦那と白井さんがいる。

なんだか夢を見ているようだ。

恋しい白井さんが目の前にいるのにどうすることもできない。

そして、一番一緒にいてはいけない白井さんと旦那と私の3人が同じ室内に存在している。

神様も残酷なことをする。
< 156 / 221 >

この作品をシェア

pagetop