恋ふうせん
「そうでしたかー。白井さんも水くさいなー。言ってくれりゃよかったのに。」

「そうですね。あの当時は色々としんどい時期でもあったのであまり思い出さないようにしていたので。でも、何も言わないのも確かに水くさいですよね。すみません。」

「あ、いやいや。誰にでも思い出したくない時期ってのはあるから、気にしないで下さい。」

急にシュンとなる旦那。

白井さんはうつむいたまま、私の方に視線を向けた。

その視線はあまりに寂しげで暗い影を落としている。

すぐにかけよって抱きしめたいのに、できない今がどうしようもなく苦しい。

「ご主人もそんなお気になさらないで下さい。それにしても、こんな夜分に長居して申し訳ありません。そろそろおいとまします。」

白井さんは、残っていたお茶を飲み干すと、すっと立ち上がった。

白いシャツにGパン姿の白井さんは、以前より少し痩せたように見えた。
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